MUSEE Fセレクト 
出月秀明
 

2004.9.6-18
 

 




出月秀明についての覚え書き

出月秀明は旅をする作家だ。しかし見知らぬ町をさすらい、見聞を広めるような旅ではなくむしろ、冒険、巡礼といったほうがよい。彼は旅の中で、自らの内なる声に耳を傾け、あるいは自我を捨て、見えないものと語らい、それを形にする。常に自己超越をするものを目指すが、その果てにある「もう一つの世界」や「遠くつかめないもの」を表すことはしない。彼は知っている。それらが存在しないことを。それを求める人の「心」だけがあり、それを求め続ける行為に意味があることを。出月の作品は、人が求めてやまない、憧れとしての何か、それを求め続けてゆくための基盤、始まりとなるもの、言い換えれば「生きるため」に必要なものを創っている。旅という特別な場でも、ありふれた日常、あるいは無意味なものにも新しい意味や解釈を付け、その始まりを導き出す。  鳥の餌台から、新しい社会のひな形としての森をつくる「バードスカルプチュア」。天井の間接照明の奥に潜む「未来の場所」。部屋の外と内の同時存在性を意識させる「意識の中の一瞬の思想」。そして旅人の介入によりありふれた場所をかけがえのない場所へと少しずつ変えてゆく「あなたのお気に入りの場所」。展示空間に火を持ち込み、その火を絶やさぬように鑑賞者が関わり、自己の内面への旅へといざなわれていく試みもある。彼の手にかかると、事物は新しい目で見ることが出来る。世界は全く変わっていないというのに。出月は、社会と自然、都市と地方、意識と無意識、を軽々と超えてゆく。その柔軟さ、軽やかさに、ひとは魅せられる。けれど、それらの作品の根底には、(忘れられて久しい)「暖かみ」といったものが流れているように思えてならない。       高科修治





□□□出月秀明□□□

1973東京都生 武蔵野美大日本画学科卒  1999に第3回アート公募99で審査員賞受賞、フィリップモリスアートアワード2000最終審査展後、ドイツのレジデンス、アカデミーシュロスソリテュードのプログラムに参加。日本人としては初めて、純粋芸術部門で選ばれる。(選者はドクメンタXのキュレーター、カトリーヌ・ダビッド)。2001年にドイツ国内においてベルリン、シュトゥットガルト、アーレンの画廊、市立美術館等の展覧会に参加。2002年はミケランジェロ・ピストレットの主催するイタリア、トリノの青年ビエンナーレ、ビッグトリノ2002に唯一の日本人個人作家として参加、アンリ・サラらとともに5人の気になるアーティストとして、イタリア紙の評価をうける。ケルンと東京で個展、ポーランド、ワルシャワ現代美術センターの交換プログラムと展覧会に参加。2003年は国際芸術センター青森のレジデンスプログラムに参加する。またカリン・ザンダーのプロジェクト「Telling a work of Art」では文章提供。  前回の個展はギャラリーHIRAWATAでの「アランの毛糸帽子会議」。








 
「海の上に出ることは孤独になることかもしれない。たとえ漁師であろうと陸にいる時のように海の中まで隈なく見ることは出来ないし、永遠に続く波のたわめきがそう感じさせる。」
*最後の土地