矢野 里奈 展
 Rina YANO Exhibition



 会期:2004.10.18-10.23

 








 Life-sized 存在への再確認 (作品コメント)

今回の作品は、ここ数年幾つかの施設で子どもを対象として私が行 なっているアートセラピーを通して、現在子ども達が抱えている悲 痛の訴えを彼らの等身大を介してここに表したものです。 施設で行なっているものはアートセラピーに属するものですが、表 現者としての私の作品は″セラピーによって子ども達の心が開放さ れた明るいものを表現したものではありません。大人が作った社 会の歪みに喘いでいる子どもたちの非言語表現を私なりの受け止め 方で具現化したものです。 これらの作品を通して、彼らの無言のしかし聞き逃してはいけない 声を是非感じとって頂きたいと思います。








Life-sized.1 スクリーンプリント テトロン布 
 




 
 

□矢野里奈

1983 東京藝術大学美術学部油絵科 卒業 制作テーマ「a wall痕跡」
1985  同上 大学院版画研究室修了  制作テーマ「after print」
2002 同上 大学院美術教育研究生 研究テーマ「心を開かせる造形活動」 制作テーマ「存在への再確認」
現在 東京都児童福祉施設において絵画・造形療法を行っている



活動歴

1981 池袋サンシャインシテイー内 リュウ画廊
1982 銀座ワコールアートスペース       
    東京都美術館卒業制作展
1984 東京都美術館修了制作展
1985 都内にてドローイング、和紙造形作品制作、発表
1995 矢野智氏とコラボレーション作品をスペイン各地にて発表




(事例ノート)  
10月17日 等身大の自分 参加者:小学生 5人 中学生 3人 高校生 3人(男子 7人 女子 4人) (不登校児 5人  被虐待児 6人)

(題材の手順)  自分の大きさを予想して広告紙をセロテープでつなぎ合わせ、その広告紙の上に好きな ポーズをとってマジックでなぞり、切り抜く。出来た人型を壁面に繋ぎ合わせ貼り鑑賞す る。

(考察)  床を使う作業のため、廊下に出て活動した。思い思いの場所でのびのびと作業が進んだ。 この題材を選んだ第1は、作業自体極めて易しいため、どんな子でも取り掛かり易い点に ある。小学生から高校生まで幅広い年齢での活動の場合、1つの題材に絞る事はむずかし い。どの子ども達にも共通して楽しく作業できるような題材は限られてしまうからだ。今 回のこの題材を選んだ理由のもう1点は、作業は個人個人によって進められるものではあ るが、出来上がったそれぞれの人型作品を壁面に繋ぎ合わせて貼って、改めて鑑賞する。 一つひとつの作品が集まって迫力ある恰も別の大きな作品であるかのように感じられるか らだ。予想通り、はじめは乗り気ではなかった子どもや、普段自分を表に出したがらない 子も、まず広告紙から出来上がった等身大の自分に驚く。そして壁面のずらりと並んだた くさんの人型に感動する。(感動をうまく表現出来ない子どもたちではあるが、しばらく壁 面の等身大を眺めたり、触ったりしていた姿からも確信できる。)(写真7)にある、不登 校男子小学生は、造形教室に何度か参加を試みた事のある子どもだった。しかし、いつも 教室の入り口付近で立ち止まってしまい入室する事が出来ない場合や、入室できても椅子 に腰掛けたままで時間が過ぎてしまうという状態だった。彼は、緘黙7の症状の子であった。 今回の題材は、等身大の自分の姿を客観的に見ることで、自分の存在の再確認をすること にある。制作工程に動きがあり、誰しも彼がこの題材に取り組むにはやや困難であろうと 思っていた。そこで、造形専門指導員がマンツーマンで彼に関わる事にしてみた。彼の緘 黙は、選択性緘黙であった。家族の説明によると、家庭の中では通常の会話や生活を送っ ているが、一歩家の外に出るなりこの症状になるという。しかし、そんな中にも彼なりの イエス、ノーがある。ノーの時は、大人が彼をどんなに強引に動かそうとしても、身体を 硬直させて動かない。反対にイエスの場合は、声こそ発しないものの、身体の硬直はない。 この判断で、指導員の丁寧な説明、周りの子どもたちの様子を彼が感じる事により、今回 初めてこのように、作品となるものを作ることが出来た。このポーズは、まさに今の彼自 身を表わしている。広告紙に写し取った後の彼の表情を観ることは出来なかった。だが彼 が、後日再び造形教室に参加した時に、教室の前でいつものように立ち止まってしまった のだが、職員が壁に展示してあるこの作品を見せると、安心したようにゆっくりと教室に 入って来た。この様子からも今回の題材は有意義なものであったと判る。また、この題材 では、様々なポーズを連ねて展示することにより、自分以外の人たちの存在も確認すると いう意図を含んでいる。今後も続けて行きたい題材の1つである。 7  情緒の表出が何らかの原因で阻止されるいわゆる情緒障害があると、運動面、身振り、表情面、発声面 などに表質欠損が生じるが、同時に発語が失われるとこの症状になる。場面により症状の相違のみられ るものを、選択性緘黙とよび、重症になるに従い、回復困難になる。