平田行雄 個展 
  





会期=2012年5月28日[月]-6月2日[土]
会場=表参道画廊+MUSEE F
時間=11:00-18:00(最終日17:00まで)









平田行雄が動かす「時間」  



                      東 陽一(映画監督)  

 平田行雄と、その分身ユキ・ヒラタ、この二つの人格が描き分ける絵には、二種類の、「時制」の異なった物語が隠されている。  

 本体の〈平田行雄〉の絵には、しばしば、あるものの「不在」が描かれる。しばしば、「何かが通りすぎたあとの空間」が描かれる。  
たとえば作品『北の海』。 堤防に、木のハシゴが立てかけられている。ついさっき、この三段のハシゴを一人の男が登って行き、海側の、ロープでこちら側とつながれているもっと長いハシゴを伝って、海岸に降りて行った。やがて二羽の黒い鳥が飛んでくる。一羽は舗道を歩き、もう一羽は堤防に立って、絵の観客には見えないが、海岸を向こうに歩いていく男を眺めている……。  一枚の絵から時間が動きはじめる。するとこの、一人の男の「不在」の空間に、海の匂いのする、不思議な喪失感が漂いはじめる。  

 分身の〈ユキ・ヒラタ〉は、別の時間を描く。彼の多くの絵には、「間もなく起こる出来事の予感」が描かれる。『ボクも飛びたい』の猫は、一秒後にはジャンプするに違いない。『開ききったチューリップ』では、たぶん五秒後に、花びらが一枚落ちる。     

      *  

 絵画は、映画よりもっと強く、観客が「誤解」や「異解」の誘惑に駆られる芸術だ。作者本人や美術館の学芸員が何を言おうと、誘惑に身をまかせて空想の中に遊ぶことは、本来的に、観客の自由にまかせられている。観客には、誤解や異解が「許容されている」のではなく、むしろ作品そのものから「要請されている」のだと言ってもいい。  
 平田行雄の作品群は、観客の脳裏に、実にさまざまな物語を呼び起こす。展覧会場に向かって歩くときより、観たあと帰っていく途中がもっと楽しいのは、道すがら、それらの物語がいつまでも頭から消えず、自由勝手にあちこち動き始めるからなのだ。









『北の海』 M15 (530x652cm) テンペラ・油彩・板








人はみな多面的な存在である。一人の人間が、あるときは崇高な考え
をいだき、次の瞬間、卑しい想念にとらわれる。 洋食ばかりでなく
和食も好み、演歌も聴けばオペラも楽しむ。そういう多面的な存在だ
から、さまざまなスタイルの表現があってもいいと思うのだが、画家
は一つの表現スタイルに固執することが多い。役者は善人も演じれば
悪人も演じる。小説家も、北杜夫であり、ドクトルマンボウでもあり
うる。絵を描き続けているうちに、自分の中にも、一つのスタイルに
は収めきれない表現の欲求があることに気がついた。

幸い今回の画廊は、同じフロアに「表参道画廊」と「ミュゼF」という
二つの展示室をもっている。日記を書くように作意のないごく自然な
風景を描いた作品を「表参道画廊」に、想像力を思い切りふくらませ
た物語性の強い作品を「ミュゼF」に展示して、旧作も何点か交えて、
観ていただくことにした。違いをはっきりさせるために、表参道画廊
は平田行雄で、ミュゼFはアメリカの友人たちが使うユキ・ヒラタに
した。しかし「どちらもお前の絵とわかるよ」と言ってくれた友人の
言が、いちばんのほめ言葉かもしれない。









□平田行雄 

群馬県生まれ 
早稲田大学文学部卒 早見芸術学園造形研究所で、
十二芳明、川口起美雄両氏に師事。 


受賞:
神奈川県勤労者美術展奨励賞
鎌倉美術展奨励賞
現代童画展新人賞 



個展:
銀座いず画廊(2005)
表参道画廊(2007)
表参道画廊+ミュゼF(2012)