矢野 里奈 
  







会期=2013年6月24日[月]-6月29日[土]
会場=表参道画廊
時間=12:00-19:00(最終日17:00まで)






 

矢野里奈さんは、東京芸大の版画研究室で木版やスクリーン・プリントによる作品に取り組んで、80年代には、和紙に板目や壁のテクスツュアを刷り込みプレスした作品を発表していた。その後も時折、版によるドローイング作品を制作発表してきたが、結婚と育児などで本格的な作家活動からは遠ざかっていた。

そのような矢野さんが再スタートを期した一昨年の個展では、ギャラリーの空間全体に半透明な布地に転写した等身大の子どもたちの姿がインスタレーションされた。そのヴィジョンは、長年携わってきた児童施設での造形教室から生まれてきたという。10数年ほど前に公立の学童クラブの指導員になったのをきっかけに、その後は都内の児童施設で子どもたちと接するようになった。その間には、あらためて芸大の研究生となって美術教育を学んだ。


近年学校とは別な側面から子どもたちの養育の拠点となるべき児童施設は、大都市の歪みや負荷をおった子どもたちの受け皿となっている。行き場を失い、こころを閉ざした不登校児や被虐待児さらに発達障害児を含む現場での美術教育は、人間性の原点に働きかけて、再生を求めうる試行であることを要請されている。


子どもたちがつなげた広告紙からそれぞれの等身大の姿を切り抜く行為も、体験的に有効な試みのひとつであるという。〈人型〉を介した表現行為は、さまざまなプリミティブ・アートにも普遍的に見られるが、そこには、世界にあっての人間存在の自己確認という素朴で根源的な欲求を希いがこめられている。子どもたち自身が象(かたど)った等身大の自分の姿を半透明なスクリーンに透過させたその像を、矢野さんは、《透身大》と呼ぶ。思春期のなかでさまよい、自閉する子どもたちとの試行錯誤、自己発見のプロセスをとおして外の世界につながっていくべきその可能性に対する、矢野さんの思いが重なる地点に産まれた表現である。かえりみれば、美術大学で版画を学びながら、路地の壁にはられた広告を転写したり、立ち歩きはじめたわが子の足跡を刷ったり、自分の表現もまた、本来生きる現実とのつながりを求めていた・・。


《透身大》とともに、ふたたび版に関わる表現のとらえ直しと展開から、作者は世界の奥行きをたずね、見えない圧迫にさらされた世界の負荷圧にまけないアートの抗力を再起させようとしている。


              鷹見 明彦(美術評論家)−’06の個展より−









※2006年展示作品より


エンビ板 スクリーンプリント



テトロン布 スクリーンプリント










□ 矢野 里奈(やの りな)

1983 東京藝術大学美術学部油画科卒業  卒業制作テーマ「a wall −痕跡」
1985 同上大学院版画研究室修了  修了制作テーマ「after print」
2002 同上大学院美術教育研究室研究生修了  研究テーマ「心を開かせる造形活動」
     制作テーマ「存在の再確認」

2001より東京都児童相談センター他数か所の施設において絵画・造形療法指導を行っている。

作品発表
1981 池袋サンシャインシティー内リュウ画廊
1982 銀座ワコールアートスペース
1983 東京都美術館 卒業制作展 1985 東京都美術館 修了制作
1985~ 新宿「テアトロン」「どん底」他飲食店にて作品展示
1995~ 矢野 智氏とコラボレーション作品制作
     スペイン・マドリードキャノン支社に作品展示
2004 東京 表参道画廊 スクリーンプリント・ テトロン布にプリント作品
2006 東京 表参道画廊 スクリーンプリント・塩ビ板にプリント作品
2007 東京 表参道画廊 どん底 起源展 ー60年前の店舗を再現するー